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2008/12/05

恩人の死

 12月に入ると、やたら喪中欠礼の葉書が舞い込む。年賀状を書かなくなってから、もうかなり経つが、喪中欠礼の葉書は年々増えていく。年を取っていくということはそういうことなのだ。 

 私の処女出版のときに散々お世話になった編集者が亡くなった。一昨日奥様の名前で喪中欠礼の葉書が来たのだ。もう驚いて、暗澹たる気分になった。一昨年だったか、癌の手術を受けられたことを知り、でもまあ手術も無事終えられたんだから、経過観察しながら長生きなさるだろうと楽観的に考えていた。

 最後にお会いしたのはもう11年前になるだろうか。あれが最後になるなんて想像もしなかった。生命力の強いイメージがあったからだ。来年になったら、出来立ての雑誌を持って久しぶりにお目にかかろうかと思っていたので、言葉を失うばかりだ。 

 奥様に手紙を差し上げようと思うが、まだまとまらないままこの2,3日を過ごしている。手紙を1通でも送ることで、故人を偲びたいと思っている。 

 日本の出版社は90%が零細企業だ。ひとりでやっている出版社もたくさんある。恩人の会社も奥様とふたりで長らくやってこられ、いつも志の高い本を出されてきた。そのラインナップに私の本もあるかと思うと、身の引き締まる思いがする。  

 お会いしたら、話したいことが山ほどあった。会わなくても、こう言ったら、どう反応するかもおよそ想像はついたが、とうとう実際に会うことは叶わなくなった。志が高いということは頑固一徹だということだ。頑固一徹に自分のスタンスを崩さずに納得のいくものだけを出版し続けたこと、そのことに畏敬の念を覚える。 

 世に出版物は掃いて捨てるほどある。そのときだけの話題を追求するような、いわゆるゾッキ本の類に入ることなく、私の本もひとつの資料として残っていくだろう。12年前に嫌な顔ひとつせずに共同出版を承諾してくれ、私を世に出してくれたこの恩人にあらためて感謝したい。そして心からご冥福を祈りたい。

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